最近は大学側でも入試やカリキュラムにおいて英語を重視する動きがあります。たとえば、2017年度に開校する国際医療福祉大学医学部では、多くの講義で英語を取り入れたり、2016年度から帝京大学医学部では、英語を入試の必須科目にするなどの現象が見受けられます。そこで、今回は医学部英語の対策について見ていきたいと思います。
まず医・歯・薬系学部で出題される長文は、医療問題に特化したテーマばかりではありません。経済や政策、国際問題など時事的な話題が取り上げられます。そのため、日頃から新聞やニュースなどに目を通し、幅広く世の中の動きに関心を持っておくことが必要です。また文法や語法については、医療系だからと言って特別な出題があるわけではないので、まずは基本をしっかりおさえ、通常の受験対策を完壁にしておくことと、全ジャンルまんべんなく学習することを心がけましょう。
とはいえ、医学部の場合、長文2題のうち、1題は医療に関連した テーマが出題されるケースが目立ちます。健康や食生活、栄養に関連したテーマは、ここ 2~3年たびたび取り上げられていますから、これらのトピックに対する情報収集もしておきましょう。また、現在流行している病気や最近研究が進んでいる分野は一通りおさえておくと良いでしょう。具体的には、認知症、うつの問題、クローン技術、iPS細胞、インフォームドコンセント、高齢化に関わるものなどがあげられます。なかでも臓器移植にともなう倫理問題は医者になる心構えという面からも注日しておきたいテーマです。さらに、今後はインフルエンザ、デング熱、エボラ出血熱などの感染症の出題も予想されます。
今後の傾向としては、英作文が重視される傾向にありそうです。英作文は、模範解答だけでは、自分の解答の正誤確認が困難です。必ず先生に添削してもらい、自分の書いた文をどう書きかえたらいいのか、的確に指導してもらうことが大切です。
医学部入試問題にはじっくり考えさせる問題もあるため、バランスの良い学習が必要です。理想を言えば高2まで、遅くとも高3の夏までには、基本を完成させま しょう。英語の学習の目標は、文法、語法、構文、語彙の4つを身につけることです。医学部などをめざす受験生のなかには、優秀であるがゆえになんとなく英文が読めてしまい、基本の学習を怠りがちな生徒がいますが、それでは応用が利かず、本当に難解な文章には太万打ちできません。感覚だけに頼るのではなく、 文法や語彙などの基本事項をしっかりおさえて、どんな文章でも対応できるようにしましょう。根拠のない解答作りをするのではなく、日頃からほかの選択肢 はなぜ違うのか、その理由も言えるように、ていねいな学習を進めることが大切です。
単語に関しては、ただ機械的に丸暗記するのではなく、語源をチェックすることで推測できる力を身につけるといいでしょう。意味を広げていく方法を身につけておくと、その後、知らない単語にぶつかつでもあきらめずに対処できます。これは秋以降、医療系の単語の勉強をするときにも役立つはずです。知らないことを前提に、いかに文脈から推測できるか、その類推力を鍛えることが得策です。なぜなら、どんなに知識を増やしても、知らない単語は永遠にありますから。
もう一つ、英語の問題を解くうえで非常に重要なのが国語力です。特に医学部では、長文に専門的かつ抽象的な話題が増えてきます。そうなると、ただ単語の意味だけを追っていても歯が立たちません。自分で文章を噛みくだき、自分の言葉で言い換える力が必要になります。
たとえば、2015年度の東京慈恵会医科大学では、次のような出題がありました。
次の日本語の文の下線部を英語に訳しなさい。
子供のころから死ぬことが怖かった。それは、自分が死んだあとでも人々は生活し、人類は繁栄し、宇宙は綿々と続くことに、我慢ならなかったからである。そのように豊かな世界を後にして自分が無になること、その不当さが耐え難かったからである。〔中島義道(著)『非社会 的社交性大人になるということ』(2013)〕
「宇宙は綿々と続く」とありますが、“綿々と”という言葉 の英訳は難しいですよね。しかし、この場合は、“綿々と”を訳す必要はなく、シンプルに考えて、「forever」とすればよいのです。また、2015年 度東京医科歯科大では、健康のために食塩摂取量を少なくするべきであるという考え 方に反対している記事を読み、「なぜ著者は反対しているのか、その理由を、次のキーワードを用いて日本語で400字以内にまとめなさい。根拠(evidence)高血圧症(hypertension)」という問題が出ています。この問題は日本語で論ずるという非常にレベルの高い問題であり、高度な国語力がないと解答するのは難しいでしょう。
つまり、日ごろから新聞やインターネットで情報を集め、最新の話題にふれておくことや、ニューヨークタイムズなどの記事を読んで英文に慣れておくのも効果的な対策だと言えます。
夏休みは、今までに身についた基礎を再確認する時期と考えてください。一通り学習が終わると、少しでも早く志望校の過去聞に取り掛かりたくなるかもしれません。しかし、回り道のように思えても、他学部や他学科の過去問を含め、いろいろな種類の問題にふれ、まずは幅広く様々な問題を解いてみてください。そこから徐々に医療系大学の過去問にシフトしていくのがよいでしょう。
ちなみに、医療系の模試は積極的に受けましょう。最新の医療テーマを取り入れるなど、その年の入試の予想問題にもなっているからです。最初は難しくてもめげずに見直しをすると確実に力になるはずです。また、医療系の模試問題を再度時間を計りながら解き直すのもいいですね。長時間問題を解く練習にもなるので、緊張感を体感できます。
医学部受験生にとって、受験勉強はそのまま将来の仕事や生き方につながっているということです。医療系の進路を選んだみなさんは、命に携わる重大な使命を持っていることを忘れずに、誇りを持って、ぜひ、モチベーション高く勉強してください。
医学部の入試問題には医療系の話題が扱われる場合も多くあります。代表的なものを紹介しますので、覚えておくと良いでしょう。
diabetes:糖尿病 obesity:肥満
depression:欝 melancholia:欝病
pregnant:妊娠している abortion:妊娠中絶
prescription:処方議 anatomy:解剖、解剖学
immune:免疫 plague:疫病
infection:伝染、伝染病 epidemic:伝染性の
pandemic:世界的流行の
death with dignity:尊厳死 hospice care:終末期医療
terminal care:終末期産療
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