『最近の私立医学部入試を突破するための勉強法:数学編』

私立医学部の数学の勉強法について、メディカルフォレストの先生にインタビューしてみました。

数学 古宮純 先生

Q1 数学に苦手意識があり、点も伸び悩んでいます。何から始めればいいのでしょうか?

A1 どうしても数学に苦手意識を持ってしまう女子生徒は多いものです。学校の試験前には高校1、2年生達が「三角比が全然わかりません」「数列がわからないので教えてください」とよく質問に来ますが、そういう時、苦手意識がある子たちに「何がわからないの?」と聞くと「全部です!」と力強く答えてくれます(笑)。

 

そういってしまう気持ちもわかりますし、茶化すつもりもないのですが実際に「全部わかっていなかった」という子は一人もいないものです。数学が苦手だ、と言っている生徒の多くは「どこまでは理解できていて、どの部分が不明瞭なのか。どの解説が自分の中で消化できていないのか」という自分の中にある理解度を把握していないのです。

 

その状態で「証明や使える条件などを気にせずにとりあえず定理や公式を覚えるだけ覚えました。基本問題は解けるようになったのですが、なぜこうすると問題が解けるのかはよくわかりません」という流れに乗ってしまうと非常に危険です。このときに使っている定理や公式は本当の意味での自分の知識ではありません。借り物の知識です。借り物だからそれを使った自分の解答に自信を持てなかったり、見慣れないタイプの問題に出会ったとき、その公式を使っていいのか、どう使えばいいのかがわからなくなるのです。

 

Q2 自分の理解度を把握し、定理や公式を自分のものにするにはどうすればいんですか?

A2 まずは教科書を読んでみてください。問題集ではありません。参考書もいいですが定理や公式の説明が省かれていないものにしてください。「教科書なんて簡単なもので……」と思う人も多いようですが、前述したように理解度を把握するために行う作業なので、初見の難しい参考書では逆によくありません。難しい参考書は教科書を完璧にこなしてからでいいですし、それ以前に教科書は言うほど簡単ではありません。

 

また、教科書を読み直す際には必ず用語や定義の説明を読み飛ばさずに熟読すること。公式は(ごく一部を除いて)自分で証明できるようにしましょう。公式の証明の流れが入試問題の解法に組み込まれていることは多々あります。例題は解答例を見ずに解き、解けても解けなくても解答例をチェックしてください。解けなかった場合はその後「解答は見ずに」もう一度解きましょう。もし、このとき解法に詰まった個所があったら、そこが「自分がわかっていなかったところ」です。

 

このような流れで一度でも教科書の読み直しをすればごちゃごちゃだった知識が整理され、視界がクリアになります。また、教科書を読んで少し粘ってもわからない個所があったらそれはそれでいいのです。そのときは私たちに質問をしてください。喜んで解説します。

 

この教科書の読み直しはその後の勉強の効率も上がります。同じ授業でも読み直しをする前と後では別物に感じることがあるくらいです。しかし、落ち着いて教科書をしっかりやり直す、という作業ができる時期は限られています。夏や秋は別にやるべき事があるので、できれば春のうち、どんなに遅くとも6月中には終わらせておくとよいでしょう。

 

Q3 問題集にあるような標準的な問題はできるのですが、難しい入試問題になると手が止まってしまいます。解説を聞くと理解はできるのですが……。どうすれば難しい問題が解けるようになるのでしょうか?

A3 この問い自体が非常に難しい問題ですね。難問にもピンからキリまでありますが、ここでいう難しい入試問題というのは超難関大学の難しい問題ではなく、一般的な医学部で出題されるレベルのものだとします。

 

まず、ちゃんとした標準的な問題集を1冊仕上げてください。とりあえず解きました、ではなく解法の流れを意識して解きましょう。難易度の高い問題集である必要はありません。できればキッチリ3周。すでに1周したことのある問題集なら2周でいいと思います。教科書の読み直しも平行してやりましょう。毎日最低2~3時間は数学に使うつもりで取り組んでみてください。丸一日を使って一気に、ではなく毎日コツコツと進めましょう。「なぜ難しい問題が解けるようになりたいのに、すでに解ける標準的な問題の話になるのか?」と思われるかもしれません。その問いに対する回答はシンプルで「解けるだけではダメ」だからです。

 

「やった事のあるパターン問題を悩みながら解きました。時間は多少かかったけれどちゃんと正解できました」高校1~2年生ならそれでも十分です。しかし受験生だとこれでは足りないのです。標準的な問題、パターン問題ならば見た瞬間に解法の流れがわかる。解いていくうちに次に何が起きるのか予測がついた上で解き進められる。これが医学部の数学で合格ラインを取るのに必要最低限なスキルだと思ってください。

 

そしてこれが応用問題を解く上でも強力な武器になります。「習うより慣れろ」という言葉がありますがそれと似たようなもので、集中的に数学に触れ、標準問題に慣れることで応用問題と対峙した際に余裕が生まれます。「何がわかれば、どう考えれば、いつもの解法パターンにもっていけるのか」「この問題の条件だと、最終的にどんな解法の流れになりそうか」そういった思考ができるようになります。また、標準レベルまでがしっかり固まってさえすれば、発展レベルの話も頭に入ってきやすくなります。授業で扱われる難しい問題の「本当のポイント」がぼやけず、明瞭に見えてくるはずです。

 

その上で思考力を問われるタイプの問題(授業で配られる発展問題や入試問題など)をじっくりと考える練習をしましょう。これは問題集を大体2周したら問題集と平行してやってみてください。ただ、最初は毎日のようにやる必要はありません。1週間に2~3問程度でいいと思います。ここで大切なのはどんなにわからなくても最低15~20分程度は何も見ずに自力で考える、という事です(問題集の方はある程度考えて全然わからなかったらさっさと解法を見て構いません)。始めのうちは「全然わからないのに考えるのは時間の無駄だな~」と思ってしまうかもしれませんが、この「無理矢理自分で考える時間」というのが必要なのだと思います。

 

受験生時代の私はとある塾で数学の発展問題演習を受けていました。この演習というのが結構な難易度で大問2問、解答時間は50分。40~60点も取れば上位に名前が載り、普通の生徒は5点や10点が当たり前、というものでした。私も解答時間の大半を「何やっていいのか全然わからないな~。どうしようかな~」と白紙の前で悶々としていたものです。しかし、ある時期を境にそれが変わります。相変わらず「これで本当にいいのかな~」とは思っているのですが、解答用紙を前にして手が動くのです。いつの間にか(その方針で合っているかどうかは別として)難しい問題に対して手探りで方針を探す、という事ができるようになっていたのです。

 

そろそろ話を終えましょう。難しい問題を解くためには、まず基礎を固めて数学に慣れてください。そのうえで解法の方針を探す、方針が間違っていそうなら戻って新たに立て直す、という練習をしてみましょう。しかし、その練習を市販の問題集などを使い独学で行う、というのは無茶な話ですし、一人でやるのはもったいない事です。難問にチャレンジした後は、ぜひ先生に話を聞いてもらいましょう。解法に対する質問だけでなく、自分はどう考えたのか、この考えではだめなのか、等々いろいろと語り合ってください。難問について先生と語り合う、というのは数少ない数学上達への近道だと思います。

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