今回のテーマは、医療ミスをめぐる問題です。このテーマはほかのテーマと比べると試験としては出題されにくいですが、医師として生きていくうえで、避けては通れない課題です。最も医師の資質が問われやすいテーマですので、慎重に自分の意見を決めておきましょう。
医療事故とは、医療従事者の過失の有無を問わず、医療行為のなかで生じたあらゆる人身事故をいう。その中で、医療従事者の過失による人身事故を医療過誤という。たとえば、患者の取り違えや輸血ミス、点滴ミス、注射ミス、看護ミスなどがある。これらは、人間であるがゆえに起こしてしまうミスである。それをヒューマンエラーという。
医療器具の不具合などの機械的な要因や、過酷な労働条件などの環境的な要因、隠蔽体質などの管理的な要因もあるが、人的要因がほとんどである。つまり。医療従事者の知識不足や技術未習熟、不注意などによって、医療事故が起きるケースである。
医療事故が起きた場合には、患者の声に謙虚に耳を傾けて状況を冷静に把握し、チームスタッフ全員と情報を共有したうえで、必要な検査や治療を素早く行なうことが求められる。また、現場の医療チームや医療機関の責任者としての立場から、患者やその家族に対して誠意をもって説明や謝罪をし、事実の解明と今後の再発防止に全力をあげなければならない。
ミスをしない人間はいない。むしろ、医療ミスは必ず生じるという危機意識を持たなければならない。その上で、医療従事者一人一人が謙虚かつ慎重に対処する姿勢を保ち続ける必要がある。そして、個人の責任追及に終わるのではなく、医療機関のスタッフ全員で医療ミスから多くのことを学び、組織的に安全性の向上を図ることが大切である。
そのためには、普段からチームワークを発揮して、良好なコミュニケーションと人間関係を築いておかなければならない。さらに、医療ミスの情報を公開するだけでなく、結果的に患者に被害を与える手前で済んだヒヤリ・ハット事例をも医療従事者が自ら積極的に報告し、医療従事者全員でリスク管理についての情報を集めたインシデント・レポートを共有することが不可欠である。そうすることで、類似の医療ミスを未然に防止することが期待できる。