大学の医学部では、他の学部と異なり、将来人命や健康に直接関わる仕事に就く人がほとんどですから、学科試験の成績だけが評価され、医師としての資質・適性を欠いた人が医学部に入学し、その後医師として働くことになったら、患者に被害が及ぶ可能性が出てしまいます。現に、1980年代後半から医療事故が増え始め、マスコミがそれを報道するようになると、たちまち国民の中に医療不信が高まりました。
そこで、1996年に文部省(現文部科学省)が設けた「21世紀医学・医療懇談会」の第一次報告、さらに1999年の第四次報告において、入学者選抜方法の改善の一環として、小論文や面接などを重視すべきであるという提言がなされました。このような事情から、大学(とくに国立)は学科試験だけではなく、医師としての資質・適性を問うために、小論文や面接の試験をかなり重視するようになりました。
医学部が小論文を課しているのは、①課題の文章や資料を通して、筆者の主張や資料の内容を客観的に読み解く力があること、②出題者の意図を把握したうえで、自分の主張を筋道を立てて説明する力があること、③医師に必要とされる資質・適性や、医療問題・社会問題についての基礎的な知識があること、以上の3点を審査するためです。
まず形式面に焦点をあて、小論文の基本的な書き方をマスターする必要があります。小論文を書くうえで最も大事なことは、結論に至るまでの論証プロセスに説得力をもたせることです。採点官を納得させるような説明が求められます。そして、学校の先生や予備校の講師に定期的に答案を添削してもらい、チェックを受けましょう。第三者から添削してもらうことで、自分の弱点を客観的に知ることができ、飛躍的に論述力が高まるのです。一定の論証パターンをマスターしたら、今度は内容面にシフトし、医系小論文で頻出のテーマについて体系的に知識をマスターします。
また、医療問題・社会問題のニュースをチェックしたり、『医の未来』(岩波新書)などの書物にも目を通しながら、最新の事情や深い教養に触れましょう。これにより、AO・推薦入試・編入試験にも対応できるようになります。AO・推薦入試・編入試験で出題される小論文は、最近の新聞記事を題材としたものや、医師としての資質・適性を問うものが多いのです。したがって、実際の社会のなかで問題となっているニュースを把握したり、命の尊さや人間性の豊かさなど、書物を通じてさまざまな価値観に触れることが必要です。
面接では、小論文と同様、①面接官の質問内容を正確に聞き取り、理解する力があること、②質問されたことに対して正面から答え、筋道を立てて話す力があること、③医師としての資質・適性や医療問題・社会問題への関心があり、熱意に満ちていること、以上の3点が審査されます。近年では、医師としての資質・適性を確認するツールとして、とくに面接が重視されていることから、対策を入念にする必要があります。
具体的には、大学によって形式が異なるので、生徒一人一人の志望大学の傾向に合わせて、個人面接やグループ面接、グループ討論といった形式に分けて対策をします。そして、先輩合格者から提供された情報本をベースに、本番の試験会場と同様の空間を設置して、想定問答集を利用しながら誰かと直に話すトレーニングが不可欠です。その際、丸暗記の台詞を吐き出すのではなく、自分の生きた言葉で堂々と説得的に話すことが大切です。質問されたことに対して、瞬時にしかも端的に答えることは難しいのですが、キーワードや話の流れだけを念頭に置いて、あとはその場の文脈に応じて話す訓練をしましょう。さらに、自分では気づきにくい動作や言葉遣い、表情、服装、髪型などについても気を使う必要がありますが、ただあまり過敏になる必要はありません。
志望理由書については、面接対策とリンクさせて行ないます。過去のリアルな体験がきっかけとなって、それがどのように医師を志す理由につながったのかを講師と何度も話し合うことで明らかにしていきます。また、単に志望大学のパンフレットを熟読するだけでなく、オープンキャンパスなどで直接大学に出向いたり、その大学に通っている先輩たちと会ったりして現場の生の状況を聞くことで、なぜその大学でなければならないのかという理由を具体的に掘り下げ、納得いくまで妥協せず、推敲を重ねて完成させます。その際、安易に講師の言葉やありきたりな美辞麗句を利用するのではなく、自分の中から湧き出てきた言葉で正直に書くことが大切です。
確かに、参考書や講師の言葉を利用して書いた方が楽かもしれません。しかし、試験官が見れば、すぐ大人が書いた文章だとか、表面上の常套句にすぎないといったように見抜かれてしまいます。したがって、いろんな人との話し合いや書物などを通して、アイディアやアドバイスをもらいながら、自分の中に生まれてきた気持ちを、多少稚拙であったとしても自分の言葉に乗せて表現することが重要です。
適性試験については、問題パターンごとに対策を伝授します。苦手分野があっても、コツさえつかめれば必ず事務処理能力が上がり、正確かつ迅速に解答を導くことができるようになります。与えられた設問から、どのようにして論理的に解答を導くか、という思考プロセスを意識しながら、数多くの問題を解いて慣れるようにしましょう。