私は高校2年末に東京大学理科三類を志望し、そこから結局5年間浪人をしましたが合格は叶わず。5浪目は流石に大学生にはなろうということで初めて後期試験にも出願し、山梨大学医学部医学科に合格しました。輝かしい受験遍歴を経た人間ではありませんが、自分なりに様々なことに意識を巡らせ、悪戦苦闘しながらも試験本番に向け工夫を重ねながら生活していたことの一部をこの場で私自身が実践した各科目の勉強法の内容を書くことを通してお伝えし、読んで頂いた受験生の方々にとって少しでも参考になることがあれば幸いです。
まず長文読解に関して。どのような形式の読解問題を解くにしても、多くの文章に触れるということは避けられないでしょう。その時に意識すべき点はいくつかあると思いますが、私自身がそれなりの速さで且つ正確に読めるようになるまで意識していたことは英語における論理的な文章の流れとはどういうものかということを考えながら読むということでした。例えば、一段落ごとの内容を頭の中で簡単にまとめながら読んだり、英語における一文と一文の繋がりに目を向けながら読んだりするということを行っていました。
そのような訓練を続けると文章の流れをある程度予測したり、詰まることなく読み進めるということが学術的な内容の文章から小説のようなものまでジャンルを問わず様々な文章において出来るようになっていきました。言葉で伝え切るのは難しいですが、自分自身で英語の文章の書き方がどんなものなのかを分かろうという姿勢を持ちながら多くの文章に触れることはどの人にとっても大切なことだと思います。
次に英作文に関して。これは先の内容に関連するのですが、やはり文章を書く際も英語における論理的な文章の流れを意識することが大事だと思います。自分で書く練習を積みながらも、長文読解の問題文や英作文の問題集の解答例などのお手本となる英文に触れて、教養人の英語の書き方の共通点を見出すことを続ければそう長い時間もかからず上達すると思います。
医学部の数学は各大学によって高度な発想力を要求されたり、あるいは数学的な内容は標準的でも膨大な計算処理を迅速に行うことが求められるなど様々です。しかしながら高校数学で扱う各分野の定理、定義、そして重要な基本性質を原理的に勉強し、問題演習を通じてそのような勉強の重要性を実感し、基本事項を応用することを実践することは数学の学力を高める上ではどの大学を受験するにしても必須です。
私は常に自分が答案として書いていることに「なんで?」と言い聞かせながら書き進めていました。要は自分が書いていることが「なぜこういう手順を踏むのかはあやふやだが、これを行えば問題の解に近づくから嬉しい」などという状態で行われているのであれば、それはその場面で重要な数学的な内容を何も分かっていない証拠に他ならないからです。数学の重要事項を学ぶということは難しいことをよく分からずとも解き明かしてくれる便利な道具を獲得することなどではなく、難しく見えることでも論理だって考えることで解き明かすという唯一の解決策を実践するための根本なのです。
このような勉強を続け、自分自身で「なるほど」と思えるまでになれば、どの大学の数学に対応することもできる土台は出来上がったと言って良いと思えます。逆に解法暗記を軸に置いた勉強で数学で全国トップクラスの成績を取った人を私自身も見聞きしてきましたが、彼らの言う解法暗記は、その暗記量や情報整理、そして知識の統合や応用の仕方がおそらく常人のそれとは全く異次元で異質なものであるために成功につながっているのではないか、と思わされることが多々ありました。
しかしながら、そのような頭の使い方ができなくても悲観する必要はなく、上に書いたようなこと、或いは自分が成長できると実感できる勉強を続ければ、少なくとも医学部に入るための数学力のラインは必ず超えることができるはずです。取り組む問題のレベルは現在のあなたの数学力より少し上のレベルの問題が好ましいと思います。簡単な問題はいくらやっても進歩がなく、難しすぎると感じる問題はいくら答えをみて解法を覚えても無意味です。
現在のあなたから見て「一筋縄では行かないように見えるが、頑張ったらなんとか出来そうだ」と思えるような問題を素材に勉強すると今まで勉強したことを活かしたり、臨機応変にアイデアを考えたり、工夫するという訓練を同時に行いやすいと思います。その中であなたのレベルが上がったと思えば、扱う問題のレベルも上げていけば良いと思います。
次に、試験で自分が考えたことがしっかりと評価されるためには、時間の制約や緊張感がある場で自分が犯しがちなミスを発見し、未然に防ぐために試験場で行うべき行動を実践することも重要だと思いますので、そのことをお話ししたいと思います。
例えば、私の場合は四則演算のミスが非常に多く悩んだ時期がありました。最難関の医学部や穴埋め式の入試を行う医学部では、このようなミスが多発することは特に致命的です。そこで私は、計算用紙や答案に書く計算式は一行ずつ確かめながら書き連ね、また計算用紙には思いついたらいろんな場所に殴り書きするのではなく、ノートに上から物を書くように、同じ大きさで読める字を書くことを実践しました。
実際なんでもないことに思えるようなことを実践するだけで必要以上に時間を使うこともなく、一発で完答できる率が上昇しました。たとえ普段の勉強によってあなたが数学力を十分に向上できたとしても、答案を読む採点官に評価されなければ意味がないので、自分が頭の中で考えたことと答案に書いたことを完全に合致させる訓練も必要な人はいるでしょう。受験数学においては数学的な内容の理解や思考力、処理力以外の要素(これは各人各様なので自己分析が肝要です)も得点の向上に必要であることは意識したほうがよいと思います。
物理の勉強の仕方は数学の勉強の仕方に近いものがかなりあるので、上記のことを主に参考にしていただければと思います。
付け加えるとするならば、難易度の高い問題や複雑な問題ほど、色んな考え方でアプローチできないか考える時間を設けることが重要だということです。ある一つの設問を解く際に、最初は定量的に計算や評価をして答えがわかったならば、逆に基本法則などから定性的に言葉などで考えて答えが導けないかなど考えてみるということです。(もちろん逆も然りです)このような訓練を色々なことを学べるような問題を通して行えば、初見の問題でもすっきりと内容が見えたり、多くの人は膨大な計算に埋もれて諦めてしまうような部分でも、見通しを持って処理できたり、或いは計算などほとんどせずとも定性的に答えが見抜けることが増えてくるなど、少しずつ学力が上がっていくことを実感できると思います。
しかしながら、数学の学力がある程度以上はないとこのような訓練を根気よく続けることもできないので、数学の学力も日々向上させることが重要になってくるわけです。数学が出来ずして物理が出来る人はほぼいないと思われます。このようなことを言うと途方に暮れて気が沈む人もいるかもしれません。しかし、物理を原理的に勉強するのに求められる数学(特に微分積分)の理解は本当に基本的なものであります。多くの人が実践していないだけで、実際に勉強してみれば「言われてみれば当然のことじゃないか」と納得して終わるようなことが分かれば良いのです。そこをクリアすれば物理の学力も上昇し、それによって数学の学力も上昇し、また物理の学力も上昇し…というように相乗的に成長出来るはずなので、楽しんで勉強してもらいたいと思います。
私の場合は、受験生にとっては見知らぬ生物学的なトピックを基にした実験考察問題を迅速かつ正確に分析し解答する訓練を主に行っていました。まだ発展途上の段階であった時期は、そもそも問題文の内容を時間をかけても掴みきれなかったので、まずは少し自分で考えれば何とか出来そうなレベルの問題を時間無制限で取り組んでいました。その際に、頭の中で考えていきなり答案を書くのではなく、紙に表やフローチャートなどを用いて図式的に自分が考えていることを書き出し、その上で情報を整理し丁寧に答案を書くことにしていました。
そのような訓練をしばらく続けることで、段々と自分の頭の中でストレスなく考えられることが増えていきました。そして最終的には全てのことを頭の中で処理出来るようになっていきました。この状態にまで自分を持っていった上で、様々な分野の初見の考察問題をランダムに日常的に解いていく訓練を行うと、新しい情報を飲み込むスピード、新しい情報と高校生物の知識をまとめて状況を分析し、それを論述するスピードや正確さはどんどん上昇していきました。
当然文字をたくさん書かないといけない科目だったので頭打ちはしましたが、それでも多くの物理化学選択には負けない成績を取るまでには成長することができました。生物の実験考察問題で高得点を取れる人は速読が出来るからその分考える時間や書く時間に余裕があるのではなく、知識の理解と情報処理の訓練が十分であるからこそ “勝手に“ 流れるように理解しながら問題文が読めており、あとはそれをまとめるだけであるから高得点をとれるのだということを念頭において、そのレベルを目指してもらえればと思います。
これらの科目は必要な人でもほとんどが共通テストのみだと思いますので、そこに絞ってお話ししたいと思います。これらの科目の勉強に必要な素材はセンター試験、試行調査、今年の共通テストの過去問のみだけです。模試の過去問集は質的に似て非なるものなので原則必要ないと思います。また共通テスト対策の参考書を買って方法論を読むよりも、いきなり実際の過去問を使って実践練習を積み重ねて、自分の弱点を見つけ出して修正を重ねるのが時間的にも質的にも良いとも思います。ただし社会の暗記本に関しては1冊程度使い勝手の良いものを持っておくのはいいかもしれません。
私は5年間の浪人生活を通して、これからの生涯の学びにおいて役立つであろうと思える自分の勉強の仕方や物の考え方を身に付けることが出来たと思います。第一志望合格というような目に見える形で結果を残すことは出来ませんでしたが、目には見えないけれど自分がこの長い生活を経て確かに得たものは第一志望合格が果たせなくても消えることなく残り続け、これからも活きてくれるものだと思っているので、そういった意味ではこの5年間は私にとって財産のようにも思えます。
メディカルフォレストでは3年間お世話になりました。本当に心強い先生方や温かいスタッフの方々のお力添えのおかげで無事に浪人生活を終えることができたと思っており、心から感謝しております。本当に有難うございました。
将来は研究医として遺伝子に関わる分野の研究に携わり、人体の寿命や健康に影響する遺伝子の解明や遺伝子操作など、人体の根本から変化を生じさせることが出来るような何かを発見できる人間になりたいと思っています。
皆さんは色々な目的や夢があって医学部受験をされておられることと思います。苦痛に感じたり嫌になったりして目標を見失う時もあることと思います。将来臨床の世界で名医と呼ばれるようなスキルの持ち主を目指すにしても、最先端の分野に関する研究を第一線で出来る研究医を目指すにしても、自分の頭で物事を考え抜くことが出来るという力は大事なのではないかと私は思います。医学部受験はその力を身に付けるための最初の第一歩にすぎないと考えれば大変な生活には変わりなくとも、楽しんで能動的に取り組めて、そして乗り越えられるのではないでしょうか。是非充実した日々を送っていただければと思います。