今回のテーマは、地域医療と高齢者医療をめぐる問題です。このテーマは試験以上に、現実の問題としてとても重要です。医師として生きていくうえで、避けては通れない課題です。とくに地方の大学を受験する方はしっかり自分の意見を固めておく必要があります。小論文や面接で必ずといっていいほど取り上げられるテーマです。
高齢者とは、一般に65歳以上の人を指す。国連の定義によると、高齢人口比率が7%以上の社会を高齢化社会(高齢化が進行中の社会)、14%以上の社会を高齢社会(高齢化が完了した社会)という。総務省によると、2015年現在、高齢人口比率は26.0%になっていることから、超高齢社会の様相を呈してきている。
高齢者医療の現状と理想のあ高齢者医療における一般的な医療行為においても、インフォームド・コンセントは大前提であるが、実際は認知症など意思確認が難しい場合もあり、インフォームド・コンセントが不十分なまま進められることも多い。さらに、介護においては、認知症患者に対する徘徊防止と称するベッドへの拘束や、殴る蹴るなどの暴力(身体的虐待)、年金の横取りや悪質な契約強要による財産奪取(経済的虐待)、侮辱や恫喝など言葉による暴力(心理的虐待)、食事やオムツ交換など必要な介護の拒否や放置(ネグレクト)など、高齢者の人権を無視した介護が行われている事実もある。
しかしそもそも、高齢者医療の目的は、治療というよりも、加齢に伴い不可避的に低下する身体的機能をなんとか維持し、障害があっても人間らしく生き、尊厳をもって自立して生活していけるようにサポートすることである。こうした高齢者医療を実現するためには、病院施設や専門スタッフの充実だけでなく、在宅診療や在宅ケアなどの充実なども必要となる。医療従事者や福祉関係者、家族が連携して高齢者を支えていくシステムを構築しなければならない。そうでなければ、介護する側が精神的・身体的負担に耐えきれず、前述したような虐待に手を出しかねない。さらに、高齢者や障害者が孤立しないように、住み慣れた地域で若者や健常者と普通に交流しながら共生することができる社会を目指さなければならない。こういう考え方をノーマライゼーションという。
地域医療とは、地域のニーズに合わせた形で、住民のために提供される日常的な医療活動全般である。そこで重要な役割を担うのが、患者の身近な相談の窓口としての「かかりつけ医=総合医」の存在である。専門性の高い医療を行なう「専門医」とは違い、「かかりつけ医=総合医」は、病気の初期段階で診断するプライマリ・ケアや、生活習慣病の予防や健康増進へのアドバイス、専門医や福祉施設の紹介などを行なう。
地域医療で問題となっているのは、都市部に医師が集中し、その結果、地方では医師不足により病院の経営が行き詰まり、医療格差が生じていることである。医療費の削減により数少ない医師や看護師たちは過酷な勤務を強いられ、夜間や救急まで手が回らない状況である。まさに地域医療が崩壊寸前となっている。病院の少ない過疎地域では近くに病院がないため、遠くまで行かなければならない。身体の不自由な高齢者にはかなりの負担である。さらに、病院が経営破綻で閉鎖されれば、患者は強制的に追い出されてしまう。
財政の効率性を優先させるあまり、人命を軽視するような国の政策は転換されなければならない。まずは医師を必要最低数まで増やすことが早急に求められる。そして、医師たちが自ら地域医療の再生を本気で考え、医師の偏在を少しでも是正できるように、意識改革をしなければならない。制度的には、医師を強制的に一定期間、特定の地域の医療に従事させるシステムを国や自治体が構築したり、一部で現に行われいるように、入学試験において、地域枠を設定し、将来一定期間その地域で働くことを条件に、学費が免除されるという仕組みを作ることなどが緊急の課題であろう。
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