日別アーカイブ: 2025年11月29日

フォレストクイズ25㉔(2025/11/29)

2025年11月29日

第24回目のフォレストクイズ25です。11月中にインフルエンザの流行が「警戒レベル(医療機関あたりの新規感染者数が30人を超える水準)」となりました。イギリスでは感染力の強い変異型のウイルスが流行しているとのことで、日本でもその感染拡大が警戒されています。街では忘年会を筆頭に年末のイベントが増える時期ですから、フォレスト生の皆さんは最大限の警戒をしてください。繰り返しになりますが、手洗いうがいはマストです!

さて、医学界が教訓としなければならない「ある事象」について出題します。

Q.名作映画『カッコーの巣の上で』でも取り上げられている、精神疾患を持つ人に対し前頭前野と視床の間の神経線維を切断して興奮や妄想などの症状を抑えようとした、1930年代に開発された悪名高い手術は何?

 

~~~答えは下にスクロール~~~

 

A.ロボトミー(ロイコトミー)

今日・11月29日は「ロボトミー手術」の開発者として知られるポルトガルの外科医エガス・モニスの誕生日(1874-1955)です。まだ精神疾患に関する治療法がほとんど確立されていなかった19世紀前半、他の学者が行った動物実験を機に精神疾患による不安障害の治療法として、モニスは「前頭前野と視床の間の神経線維を切断する」という手法を考案します。モニスは神経線維が多く結合した「白質」と呼ばれる部分を切除するこの手術を「白」と「切除」の合成語で「ロイコトミー」と命名しました。後にこの手術を積極的に行うウォルター・フリーマンという医師は「前頭葉」の「葉」に因む「ロボトミー」の名を広めます。この手術は興奮状態などの緩和という観点ではある程度の成果を上げたものの、不可逆な手術の末に重篤な副作用が多く見られるという問題が発生しました。損傷のために障害が残ったり、感情反応が低下したり無力感が残るなど、かえって社会参加が困難になるケースは少なくありませんでした。問題で取り上げた『カッコーの巣の上で』は精神病院を舞台とする映画ですが、その中である登場人物がロボトミー手術を受けさせられ、以前と変わり果てた姿になるシーンがあります(ネタバレ防止のため詳細は触れないこととします)。しかもそうした副作用は興奮状態の緩和といった「成功」の影に隠され、十分な経過観察を経ずして世に宣伝されることとなります。エガス・モニスは1949年にノーベル生理学・医学賞を受賞します。その時点でも多くの「被害者」が生まれていたのにも関わらず、です。1950年代以降様々な向精神疾患薬が発明されたためロボトミーは実施されなくなり、禁止されるようにもなりました。しかし、患者の権利を大きく侵害しているはずの「ロボトミー手術」は、画期的な手術としてもてはやされていた時期が確かにありました。それはなぜでしょうか?同じ過ちを繰り返さないために、何がこの事件から学べるでしょうか?

近年では「ELSI(エルシー)」という言葉があります。「ethical, legal and social implications」の略称で、日本語では「倫理的・法的・社会的な課題」と訳されることが多いです。元々「ヒトゲノム研究」から生まれた概念とされ、医学・生命科学などの分野をはじめとする新しい科学技術によって生じうる様々な課題のことを指します。技術が大きく発展し、我々の予想を超えていく時にはどんな課題が生まれるかもまた我々の想像を超えてくるでしょう。医師になるならそうした点についても考えていく必要があります。皆さんはその準備ができていますか?今のうちからその訓練をしておきましょう。頑張れフォレスト生。

メディカルフォレスト上山

出典

ロボトミー手術について https://shohgaisha.com/column/child_detail?id=3033
カッコーの巣の上で https://press.moviewalker.jp/mv1638/
ELSIについて https://square.umin.ac.jp/platform/elsi/elsi.html

インフルエンザ流行について https://news.yahoo.co.jp/articles/0e96ec71f6c0c08930fa5d080f84d917a32c583d